金沢歳時記(季節菓子編)
藤橋 由希子
日本三大菓子処「金沢」
日本は何かを格付けするときよく3大と、3つを挙げることが多い国ですね。
その3つについて特に順位をつけるものではないのですが、とにかく3つ用意します。
金沢市(石川県)にある日本の三大○○を挙げると、三名園の「兼六園」、三名山の「白山」、三大朝市の「輪島朝市」、三大子供歌舞伎の「お旅まつり」、三大銘菓の「長生殿」など、そして今回紹介するテーマ日本最大菓子処として、京都、松江と共に称されるのがここ「金沢」。
共通するのは城下町であること、そして茶の湯文化が背景に存在することが挙げられます。
そんなわけで、金沢は和洋問わずお菓子屋さんが多い町ですが、よく観光客から尋ねられるのが「お勧めのお菓子」について。
こういう聞かれ方をすると実は少し回答に困ってしまいます。なぜなら、お勧めの菓子(特に和菓子)がたくさんありすぎて絞り切れないのです。
ですから、お応えする際は絞り込み情報として、日持ち日数や重さ、種類(饅頭系、せんべい系、羊羹系、ねり切り系など)などをお伺いしてからお答えしています。
そしてタイミングが合えば季節限定菓子は必ずお勧めします。
こういう菓子文化が残っていることが三大菓子処たる所以のようにも思います。
それではそんな季節菓子の数々を紹介してゆきましょう。
お正月
年の初めの期間限定で現れるのが「福梅」、「辻占」、「福徳せんべい」があります。
福梅は、文字通り梅の形をした最中で、色は白とピンク。縁起の良いお菓子です。
辻占は、小さな四角い求肥の中に小さく丸めた紙が入ったお菓子。紙の中には何やら意味深な言葉が書かれています。3つ食べて言葉を組み合わせることでメッセージになるという占い菓子で、映画「ハリーポッター」に出てくるおみくじクッキーやアメリカで食べられているフォーチュンクッキーの原形になっているとさえ言われています。
私も毎年辻占の意味深なメッセージ(「ことしはまたせぬ」「あきらめなさい」「今年は手を取り二人連れ」などなど)に一喜一憂している一人です。
福徳せんべいは、小槌や米俵の形をした薄い最中の中に、小さくてかわいらしい土人形や金平糖などの砂糖菓子が入ったものです。
小さなおもちゃがたくさん詰まった感じで、ワクワクしながら割る楽しみがたまりません。
ひな祭り
ひな祭りが近づくと、金沢のお菓子屋さんの店頭には、鮮やかに彩色された砂糖菓子が並びます。
鯛や桃などめでたいモチーフの細工もので、かごに入れられ、そのままお雛飾りにできるようになっています。飾った後は、砂糖なので料理に使ったり、そのまま飴のようになめたり(私はこっち派でした)、きちんとお腹に収まるようになっています。
氷室の日
「氷室の日」
これは金沢ならではの風習ではないでしょうか。
藩政時代、加賀藩前田のお殿様が徳川将軍に涼を届けようと、冬の間に氷室(昔冷蔵庫のような役割をしていた小屋)に雪を詰めて保管し、毎年7月初旬に氷室を開け(氷室開き)て、切り出した氷を遠く江戸まで献上していました。
この行事が庶民の中で形を変えて広まり、氷室の日が生まれました。
氷室の日に夏場の無病息災を祈念して「氷室まんじゅう」を贈り合う風習が今でも残っています。
当館でもこの日のお茶菓子はもちろん氷室まんじゅうです。
お中元やお歳暮同様に、取引先に氷室まんじゅうを届けてあいさつ回りをするという会社も多く、この日はどこに行ってもお茶菓子に氷室まんじゅうが出てくるという面白い日でもあります。
氷室まんじゅうは、白、ピンク、グリーン、水色など、涼しげな色をした酒蒸しまんじゅうで、中にはしっとりとした餡が詰まっています。
この日ばかりは金沢中の和菓子屋さんは大忙しですが、金沢人はそれぞれお気に入りのお店を持っています。普段買うお店と違って、氷室まんじゅうをかうならここと決めている人も少なくありません。
というわけで、食べ比べも楽しめる氷室まんじゅう。一日で何個もまんじゅうを食べられる日って面白いですよね。
夏場のお菓子
夏場はさすがに食べ物が傷みやすい時期ということもあって、和菓子屋さんも一息つける時期です。
と言っても季節限定菓子は健在です。
ここでは金沢の夏菓子「くじら餅」をご紹介します。
山形県や青森県にも「くじら餅」というお菓子はありますが、色や形、味も全く違います。
金沢のくじら餅は、ういろうのように白く透明がかったサイコロ型の餅の上部だけが黒く焦げたようになっていて、その名の通りくじらの脂身と表皮さながらの形をした餅菓子です。
先に山形県でも名物になっていると紹介しましたが、山形県新庄市の名物で、その新庄市にはなんと「金沢」という地名が存在しています。ルーツを探りたくなりますね。
奥深そうなくじら餅、ぜひ金沢と山形県のくじら餅を食べ比べてみたいものですね。
祝い菓子いろいろ
めでたいお祝いの場にお菓子は欠かせません。
祝い菓子の代表と言えばやはり「五色生菓子」でしょう。
一般的に婚礼の席での引き出物で用意されるお菓子と言えば、紅白の薯蕷饅頭ですが、金沢では独自の「五色生菓子」が重箱に詰められています。
五色の名の通り、五種類のお菓子の詰め合わせです。
そして五穀豊穣を願って、それぞれに「日」「月」「山」「海」「里」を表したお菓子は、通年バラ売りで店頭にも並びます。一番よく目にするのはくちなしの花で黄色く染められたもち米をまぶしたえがら饅頭で、山を表しています。
おめでたいことと言えば、出産もありますね。
こちらも変わった風習ですが、金沢では犬のような安産を祈念して、出産1か月前の戌の日に、お嫁さんの家から嫁ぎ先の家へ「ころころ餅」が贈られます。
今は近しい友人やご近所さんなどにも配られます。
かわいらしいネーミングですが、いろんな願いが込められています。
色白の赤ちゃんが生まれてくるようにと白餅なのと、つるつる器量の良い子が生まれるようにとつるっと丸い卵型をしています。
面白いのが、この時出来上がったお餅が長めだと男の子、真ん丸に仕上がると女の子といった風に、形で男女を占ったそうです。
お餅なのでもちろんみんなで食べるのですが、ころころ餅はかわいい赤ちゃんの分身です。
火傷をしないようにと食べる時は決して焼いてはいけないというきまりがあります。
茹でて食べるかそのまま食べるか、餡の入らないシンプルな白餅ですが、それゆえに味わい深いお餅です。
写真は以前母の友人からいただいたものになります。
少し長めになってますよね、生まれた子は男の子でしたよ。
まとめ
以上が思いつくままに挙げた金沢のならではの季節菓子。
和菓子屋さんがそれぞれに季節や月ごとの上生菓子を作っているのもお忘れなく!
抜けてるものもあると思いますが今回はこの辺で。
全国的にあるお菓子は外してもこんなにあるんですよ。さすが日本三大菓子処の金沢!
金沢のお勧めのお菓子。色々ありますが、季節菓子があると選ぶ楽しみも増えますね!
お菓子巡りなんて旅も楽しそうです!