金沢歳時記(加賀野菜編)

藤橋 由希子


金沢の味覚と言えば皆さん地理的な環境から、蟹や海老をはじめとする海産物が真っ先に浮かぶと思います。
浮かんでしまうと思います。

ですが日本は島国。海産物がウリというのは全国的でありふれていますよね。
もちろん日本海、北陸地域特有というか魚も地域色があることは分かりますが、流通が発達した今、それを感じることができる観光客は相当感度の高い方だと思います。
しかーし!金沢の食文化はそんな薄っぺらいものではないのです!

ということで、今回は海産物一切なしの大地の恵み「ご当地の野菜」を紹介しましょう!
ご当地の特徴的な料理を「郷土料理」というように、特徴的な食材(今回は野菜)を「郷土野菜」とか「地野菜」、「伝統野菜」などと言ったりしますね。
京人参や聖護院大根などが有名な京野菜をイメージすると分かりやすいですね。
京野菜は他の野菜と区別してブランド化されている分、その多くはちょっとお高いイメージ。
ですが、金沢は違うのです!

今回は庶民的かつ特徴的(見た目も味も食べ方も!)な金沢の郷土野菜をご紹介します。
この情報をもとに近江町市場や飲食店に行くと、きっとお土産や注文メニューが変わると思いますよ~

加賀野菜って?

加賀野菜は、昔から金沢で生産されている野菜です。
農業の発展は生産性の向上を生んで、今ではほとんどの野菜が品種改良されて、病気に強くて見た目のきれいな野菜が作られるようになりました。
そんな中にあっても「質」を重視して守られ続けた野菜、それが「加賀野菜」なのです。

加賀野菜に認定されているのは全部で15品目。どれも旬がはっきりしていて、「今だけ」「ここだけ」を感じさせてくれるところが大好きです。
天候によって収穫期が多少変わることはありますが、ここではおおむね旬の時期としてご紹介していきますね!

トップバッターに上げたものの、筍は全国的に収穫されますよね。
ですから産地は全国にありますが、加賀野菜の筍の産地は市内中心部から車で約30分のところにある「別所(べっしょ)」地区。
4月下旬ごろからの約1か月が旬です。
この時期のみ営業する筍料理専門店が別所の町のあちこちにオープンします。
筍は鮮度が命!
朝掘りの筍をお刺身で!甘さと歯ごたえ、瑞々しさ満点の筍はやはり別所で召し上がってほしいですね。
もちろん市内飲食店でも食べられますが、筍で注意したいのが豊作の「表年」と不作の「裏年」。
面白いように毎年繰り返すんですよ。
今年(2016年)は裏年でしたから、来年は表年!
金沢で筍を食べる時「今年は○年やったね~」などという会話が当たり前のように話せるのが金沢人!と思いたい。

初夏

加賀太きゅうり

太いきゅうりという見た目そのままのネーミング「太きゅうり」
ですがその食べ方は普通のきゅうりとは違って、サラダのようには食べません。おまけにきれいな緑色の皮は剥いてしまいます。
皮を剝いて縦に切ったら、普通のきゅうりと比べて少し薄い色(白っぽい)をした実が現れて、とても瑞々しくてさわやかな香りが広がります。
メロンほどではないですが、中心部はには透明なゼリー状の中に白くて小さな種がびっしり。
これをスプーンなどできれいにすくい取って下処理は完了です。
太きゅりは煮物にすることが多いのですが、柔らかく味が良く染みます。
また酢の物にしてもおいしいです。これは普通のきゅうりと同じですね。
当館では朝食時に酢の物でお出しすることが多いです。

赤ずいき

夏場にぴったりのさっぱりした野菜と言えば「赤ずいき」でしょう!
ずいきはサトイモの茎の部分の事ですが、赤色をしているので「赤ずいき」と呼んでいます。
漬物や酢の物で食べるのが一般的ですが、見た目は細くてふにゃふにゃした赤いフキのような感じです。
ほんの短い季節に少しだけ出回っている野菜ですから、夏(7月あたり)の金沢でずいきメニューに出会ったら必ず注文してくださいね。
というか、ずいきを提供している飲食店は絶対間違いないと勝手に思っています。
地元の定食屋さんなんかでは見かけますね。
酢の物は最高です!

金時草

加賀野菜の代表格のひとつ「金時草」。
キントキソウではなくキンジソウと読みます。
葉の裏が鮮やかな紫色をしていて、さながら金時芋のようなことからこの名がついたと思われますが、実は九州や中京地区で「水前寺菜」という名前で生産されている野菜です。
金時草という呼び名は金沢だけのものですのでお間違いなく!
もちろん水前寺菜も葉の裏が紫色をしていますが、金時草ほど濃く鮮やかではありません。
金時草は葉が肉厚で濃い色をしています。金沢の土がこの色を生み出しているんですね。
なんでもこの色素は赤ワインのポリフェノールと同じという事で、抗酸化作用の強く、美容にも良い野菜です。

金時草の歴史は藩政時代に活躍したの交易船「北前船」と切っても切り離せません。
当時は日本全国へ北前船を使って物資の輸送をしており、金沢にも北前船の寄港地として港(大野港、金石港)がありました。
長い船旅で船員を悩ませたのがビタミン不足によって引き起こされる病気です。
中でも脚気(かっけ)は深刻だったそうで、それを予防するためにビタミン豊富で生命力の強い水前寺菜を船に積み込んで船員に食べさせたと言われています。

金沢で金時草という名前で定着しましたが、生命力の強さを感じる野菜です。
市販されている金時草(おそらく水前寺菜もそうだと思いますが)の食べられる部分(葉の部分)を取ってしまった後、棒のようになった茎をコップの水に差しておくと数日で根が生え始めます。
ある程度根が延びたら植木鉢に移すことができて、何と新しく葉が育ってまた収穫できてしまうんです!
これは一度で二度も三度もおいしい野菜です。
是非お試しあれ!

一般的には葉の部分だけを食べますが、お浸しやてんぷら、サラダにすることが多いです。
鮮やかな紫は茹でてしまうとわかめのように黒っぽくなってしまいます。
食感も面白くて、モロヘイヤのように少しぬるっとしています。それでいてシャキシャキとした歯ごたえも楽しめます。見た目と違ってクセもなく食べやすい野菜でですので、是非お土産にお買い求めください。

綺麗な紫色の色素は金沢の色々なお土産品に活用されています。
由屋でも朝食の酢の物でお出ししています。
夏が旬の野菜ですが、最近はハウス栽培で真冬以外は市場で目にすることができるようになりました。

へた紫なす

その名の通りヘタまで濃い紫色をした茄子です。
小ぶりですが水っぽくなく、色がきれいなので漬物や揚げ煮などに登場します。
生産量はそれほど多くないので、市場で見かけたらラッキー!
かつての人気テレビ番組「どっちの料理SHOW」(世代が分かりますね)の特選素材に紹介された野菜で、やはりただの茄子ではない!茄子なのです。

つる豆

つる豆はとにかく肉厚で、産毛のような短い毛が生えているのが特徴です。
売られている状態では当然「つる」はないのですが、つる豆の木は周りの添え木などにどんどんつるを巻いて育ってゆきます。白い綺麗な花は独特の香りがするんですが、これをご紹介できないのが残念!

つる豆は先にもご紹介した通り、肉厚な「さや」が特徴です。
豆というとさやの中の豆が主役と思われますが、つる豆に至っては主役はさやと言っても過言はないでしょう。煮物になることがほとんどですが、是非美味しい「さや」をお召し上がりください。

打木赤皮甘栗かぼちゃ

早口言葉のようなこのカボチャは、その名の通り鮮やかな色が特徴。
赤皮と言っても赤いのではなく、オレンジ色で、一般的に売られているえびす南瓜と比べて小ぶりでコロンとしています。
皮と同じく果肉の色もきれいなオレンジ色をしています。
かつては弱い品種であったことから栽培に手がかかるため、生産者が減ってしまい、なくなってしまうのではと心配しましたが、加賀野菜としてのブランド力のお陰で生産量も増えています。

打木赤皮甘栗かぼちゃの味はと言うと、これも名前の通り甘みの強いのが特徴。ホクホクしているというよりは、しっとり柔らかくて、煮物にすると煮崩れしやすいのが難点です。きれいな皮も柔らかいので調理の際に皮を剥く必要はありません。
料理屋さんでは煮崩れさせずに上手に煮物にしているお店もありますし、無難に天ぷらにするところもあります。色がきれいで柔らかいというのは加工がしやすいという考え方もできます。
ですからこのカボチャはお菓子の材料として活用されていることが多いです。
ジャムやあんこ、シフォンケーキやクリーム、プリンなど、和洋問わずお菓子の材料としてもとても重宝されている野菜です。

五郎島金時

金時と言えばという事で、豆ではなく「芋」です。
鳴門金時をルーツに持つこのさつま芋は、金沢の砂丘地帯「五郎島」という地区で生産されています。
鳴門金時同様きれいな紫色をしていますが、恐らく観光客が市場で目にするときに驚きの光景が映るでしょう。
サイズごとにきれいに仕分けされた巨大な芋コーナーがあるんです。五郎島金時に占領されたかと思うほどの売り場になっているお店もあるほど!
それもそのはず、なんと五郎島金時は等級が38通りもあるんです。
野菜には優とか秀とかLとかMとか、野菜ごとの品質を表す等級があります。五郎島金時はもしかしたら日本一?と思ってしまうくらい細かく等級が分れています。
単純に大きさという分け方(これについても細かい!)だけでなく、形(長めか丸っこいか)についても細かく分けられていて、小さなものは小指サイズのものまで売られています。

市場の方に聞いたところ、ここまで細かく区別するのは理由があって、お好みの芋を常に提供するためだとか。つまり自分の口に合う等級さえ覚えておけば、いつ、どのお店に行っても同じ味と食感の芋が買えるという事。
気になるお味はと言うと、細くて小さいものほど甘みが強くてしっとりしているそうです。大きなものは逆に甘みが強くなくホクホクしているとのこと。
サイズについては食べ方にもよります。焼き芋(ふかし芋)にするか、めった汁(けんちん汁)にするか、芋ご飯にするか、天ぷらにするかなど、調理法によってベストなサイズがあります。
ここまで芋にこだわることってそうそうないですよね。

さつま芋に並々ならぬこだわりがある金沢人のために作られた五郎島金時は、秋に収穫されてからはしっかりと管理された貯蔵施設に保管されて、春ごろまで店頭に並びます。春ごろに出回っているものは適度に水分が飛んでホクホク感が増しています。
金沢弁で「こぼこぼ」という食感を楽しめるのはこの時期でしょうか。こぼこぼが好きな方は是非お試しください。

近江町市場内の青果店「北形青果」には野菜ソムリエの店長さんがいますよ。ものすごいうんちくを聞かせてくれるので、是非立ち寄ってお話を聞いてみてくださいね。もちろんお買い物もしてくださいね!

加賀一本太ねぎ

秋から冬にかけて出回る野菜ですが、生産者も少ない貴重な郷土野菜です。
一般的に出回っている葱と比べて長く育つのが特徴で、そのせいで風などの影響で倒れてしまうなど、お天気の影響を受けやすいことから生産者に敬遠された歴史があります。

ですがその味わいはと言うと甘みが強く柔らかいのが特徴で、切ると粘りのある汁(言い方がきれいでないですね)がたっぷり出てきます。ですから薬味ねぎのように細かく切るのは不向きです。味もピリッとした辛さより甘みがあるので、甘みを引き出した調理法がお勧めです。
水分が多いので焼くより煮た方が美味しいと思うのですが、すき焼きや肉豆腐に入れたら最高です。
太ねぎとありますが、太さは普通のねぎと変わりません。

ただ、近江町市場では見かけますが、飲食店のメニューで見かけたことがないですね。
市場で食べられるお店を聞くといいでしょう。

小坂蓮根(加賀蓮根)

金沢の小坂地区で作られる蓮根が「小坂蓮根」です。
最近は別の地域でも大規模に栽培されているので、地域を特定する名称ではなく「加賀蓮根」と総称されることも多くなりました。
ですがここではあえて区別してご紹介したいと思います。

小坂蓮根は小坂地区の粘土質の土壌で育ったでんぷん質の強いる蓮根で、その食感にびっくり!
モチモチなのです!
恐らく一般的に蓮根の食感はと聞くとシャキシャキと答える方が多いのですが、小坂蓮根はモッチモチ!
ですから、煮物にするととてもおいしい蓮根です。

小坂蓮根のもう一つの特徴は繊維質なことです。繊維質と言うと筋張っているイメージを持つ方もいますが、決してそうではなく、髪よりずっと細い、蜘蛛の糸(例えが良くないですね)のように細い細繊維があって、煮物の蓮根をかじった後、スーッと細い細い繊維が糸を引くように伸びてきます。
口に残る繊維ではなく本当においしい蓮根です。

小坂蓮根の特徴はこれだけではありません。大事に育てた蓮根は大事に手掘りで収穫します。
蓮根は周知のとおり根っこなわけですから、地中深くに食い込むように育っています。一般的に収穫する時は高圧の水流を使って蓮根を掘り起こすのですが、小坂蓮根は農家さんが泥をかき分けて慎重に掘り出します。
ですから店頭でも小坂蓮根と加賀蓮根の区別ははっきりつきます。
泥付きかそうでないかが区別のポイントです。
泥付きの方が日持ちします。新聞紙にくるんで冷暗所で保管すれば1、2か月は保存がききます。

加賀蓮根はやはり土壌が違いますから小坂蓮根ほどの明確な違いは感じません。地場野菜なので応援しますが、私は圧倒的に小坂蓮根派です!

美味しい食べ方はと言うと、やはりでんぷん質ともちもち感を生かしたものです。
きんぴらではなく煮物!
金沢の郷土料理蓮蒸しは、蓮根をすり下ろして蒸しあげ、モチモチな饅頭のようになったものに餡をかけた料理。具だくさんで美味しいです。
私が一番好きなのはすり流し汁。みそ汁の中にすりおろした蓮根をそのままドスンと入れるだけ。
ここでかき混ぜてはいけませんよ!
ほっておくと汁は溶けた蓮根のでんぷんのお陰で汁はトロトロになりますし、溶けずに固まった蓮根は柔らかい団子のようになります。
消化にも良くて体も温まるので、子供の頃風邪をひいたときに母が作ってくれました。
風邪をひくと嬉しくなるくらい大好物な料理です。
こちらも簡単に作れますので是非お土産にお買い求めください。

小坂蓮根も加賀蓮根も3月いっぱいあたりまで店頭(市場)で購入可能です。

源助大根

変わった名前の大根ですが、こちらも加賀野菜の代表格です。
見た目の特徴はというと、短くて太い!
かつて(子供の頃)足(特にふくらはぎ)が太いことを言うとき「源助大根みたいな足」と言ったものです。
私もよく言われました(シクシク・・)

そんな源助大根豪快な見た目とは裏腹に味は甘みが強いのが特徴です。
そしてこの大根も加賀蓮根同様繊維質が特徴。
もちろん柔らかい繊維で、口に残るようなスジとは違いますからご安心を!
この繊維のお陰で源助大根は煮崩れしにくいという特徴も持ち合わせています。
ですから源助大根はすりおろしたりしないでくださいね。煮物専用の大根だと思ってください。

冬にしか出荷されない大根なので、当然美味しい食べ方はと言うと、おでん、ふろふき大根、ぶり大根など煮物なら何でもOK!本当においしく仕上がるので思わず料理の腕前が上がったのではと錯覚を起こしてしまうかも!
甘くて柔らかい源助大根は飲食店でもメニューに明記して、普通の大根とは別格扱いされているお店がほとんど。美味しいと思ったら是非お土産にお買い上げくださいね!

セリ

主に金沢の諸江地区で作られている野菜です。
香味野菜ですので、地味な存在ではありますが、諸江セリは一般的に出回っているものよりも茎が細く、風味が強いので、冬場の料理の薬味には欠かせません。
柔らかいのでお浸しにもなります。
金沢の豊富な湧き水が育んだ野菜ではありますが、最近は生産量が減ってきているので、とても貴重な幻の野菜になっています。

くわい

くわいは正月料理に縁起物として煮物に入ります。
多分これは全国的に見ても同じですよね。くわいは丸いサトイモのような芋からニョキっと茶色い芽が出た状態で売られています。
芽が出ている⇒めでたい、という事で縁起ものなわけですね。
金沢でも正月前後の短い時期だけ店頭に並びます。

二塚からし菜

主に二塚地区で生産されている葉野菜で、見た目はもさもさした春菊のような紫蘇のような風貌です。
更にきれいな緑色というよりか赤茶色していて、見た目に決して美味しそうには見えない野菜。

ですがこれがまた大人な味なんです。
名前の通りピリッとというかツーンとくる辛さが特徴で、お浸しで食べます。
ですがこのからし菜の辛さをうまく引き出す茹で方というのがなかなか難しくて、茹ですぎると辛みが飛んでしまいます。茹でるというより、熱湯をかけるようにすれば上手くできるよと市場の八百屋さんに教えてもらいました。

子どもには分からない、違いの分かる大人のための野菜です。

金沢春菊

地味なようで私の大好物がこれ!
春菊と言うと独特のエグミやアクが強いという事で嫌いな人の多い野菜です。
そんな人にこそ食べていただきたいのがこの金沢春菊!

見た目の特徴はと言うと、まず葉っぱの形です。一般的な春菊のギザギザした葉っぱではなく丸くてふっくらした感じです。それもそのはず、金沢春菊はその原種である「菊」に近い野菜です。
そう、あのお花の菊です。菊の花のように葉っぱが丸いのが金沢春菊の特徴です。
原種に近い春菊は病気に弱いため品種改良がされて現在の一般的な春菊が出来上がったのですが、改良の結果アクやエグミが強い野菜になりました。
金沢春菊はサラダで食べられるほど食べやすい春菊です。
食べ方は鍋に入れたり、お浸しや胡麻和えにしたりと通常の春菊と同じですが、味わいは全く違いますので是非お試しください。

まとめ

疲れました・・・加賀野菜についてここまで紹介しているものはないかも!(農協さんのような立場の人は別!)
これも金沢愛の現れ!地元びいきの現れです。
金沢に来るとついつい魚介類に目がいってしまいますが、是非加賀野菜もお忘れなく!
名脇役どころが、超主役級野菜が沢山ありますよ!

最後にもう一度ご紹介!加賀野菜の事なら近江町市場の「北形青果」さんをお勧めします。
当館の仕入業者さんですが、間違いないですよ!
<北形青果 facebookページ>
https://www.facebook.com/北形青果株式会社-264850123570356/


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