金沢の謎~雛人形を仕舞うとき・・・~
藤橋 由希子
金沢は全国的な風習であっても、ここだけという独自のルールが存在することがあります。
今回は時節柄、そんなものの中から一つ「雛飾り」に関するお話。
一般的なひな祭りの習わし
ひな祭りと言えば3月3日、「桃の節句」と言われる女の子のお祭りですね。
ひな人形を飾るのが一番代表的ですが、飾り棚のサイズに応じて、ひな人形の数や組み合わせも違います。
ひな祭りの歌にあるように、「お内裏様(男雛)」と「お雛様(女雛)」は欠かせませんが、「3人官女」や楽器を手にした「5人囃子」が代表的な雛人形の種類になりますが、この他にぼんぼりや梅の枝、菱餅などのお飾りがセットされますね。
お祝いの食事には、ちらし寿司や、ハマグリのお吸い物、白酒、おやつには雛あられが用意されますね。
そして、3月3日を過ぎたら早くしまうというのが習わしです。
金沢の習わし
金沢でももちろん雛人形を飾ります。
飾りつけは全国的なものとほとんど変わりありませんが、お飾りに独自にものを用意します。
「金花糖」という砂糖菓子です。このお菓子については、「季節菓子」のコラムでごも紹介していますが、鯛や桃、竹、小槌など、めでたい縁起物をかたどった砂糖菓子にきれいな色付けをしたもので、金沢独自と言えます。これはひな祭りが終わったら、飴のように少しずつ舐めたり、割って料理に使ったりして、使いまわしはしません。桃の節句が近づくと、金沢の和菓子屋さんでは一斉に金花糖づくりが始まり、店頭にはかわいらしい細工物が色とりどりと並びます。
さて、そんなひな祭りですが、金沢は他と最も違うのは、雛飾りを仕舞うタイミングです。
金沢の雛飾りは一般的な時期より1カ月も遅い4月3日から仕舞われるんです。
金沢の女性は嫁に行くのが遅くなる?
雛飾りを早くしまうのは、女の子の婚期が遅れないようにというものですね。嫁がせたくないと願う親が、わざと雛飾りを遅くまで出しておくなんて話も聞きますね。
恐らく金沢ではそんな話がされることはないでしょう。なぜならば仕舞う時期がそもそも遅いので。
でも金沢の女性が晩婚かと言うと決してそうではありませんから、この習わしはあくまで「言い伝え」のレベルでしょうね。
ではなぜ金沢では4月3日を過ぎてから仕舞うのでしょうか。
ここには諸説あるのです。
4月3日以降に仕舞う理由は?
<理由その①>旧暦を採用しているから
金沢で旧暦を採用するのはお盆が浮かびます。新盆で7月にお墓参りをするところが多い中、金沢では依然旧盆で8月に墓参りをする人が多いです。
この理由は分かりませんが、旧暦を採用するケースは、金沢においてはごくまれなケースです。
<理由その②>お殿様の命日だから
藩祖前田利家公の命日はなんと3月3日なのです。
亡くなった日にお祝いなどできないという事で、旧暦にお祭りをずらしたという流れになったのではとも言われています。
個人的には仲良く、この両方が理由なのではないかと思います。
ひな祭りの日に、お殿様が亡くなり、お祭りどころではない事態になったけれど、大事な子供のお祝いはしたいという思いもあって、無難に行う方法として、旧暦を採用したというもの。
どもあれ、今でも金沢は3月3日を過ぎても堂々と雛飾りが置かれています。違和感を覚える方もいると思いますが、こんな風習だという事が分っていただければ、「なんてずぼらな町なんだろう」と思われずに済みます。由屋でももちろんまだ飾ってありますのであしからず。